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しのふく通信

物語をめぐり、言葉をめぐり、それから。ーーーー✖︎篠崎フクシ

眠りについて ージャック・ロンドン『火を熾す』から

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    昨夜は飲みすぎたせいかそれともストレスなのか、真夜中に目を覚ましてしまった。早朝覚醒のような、アレか。経験的に、こういう時はすぐには眠れないだろうと考え、コップ一杯の水道水を飲んでから布団に入る。枕元の置き時計は二時を表示している。

   仕方がないので、軽くストレッチをしてから一冊の本を選び、読みはじめる。こういう時は一度読んだものがいいし、短いものがいい。天の背側に溜まった埃を払い、久しぶりに本の表紙を捲る。

   ジャック・ロンドン『火を熾す』、柴田元幸訳だ。以前、村上春樹と柴田氏がある文章を訳して比較をするというのを読んだことがあるが、柴田訳は乾いていて自分の感覚にピッタリきたことを覚えている。

   部屋の電灯を消すと、小さなスタンドの灯りだけになる。LEDの灯りは、白い。予想した通り、その短編の細部は記憶から遠ざかっていた。

   そこは太陽の昇らない、北米大陸の北の果てだった。零下五十度を超えるほどの極寒の世界に、一人の男と一匹の犬が歩いている。川のクリークに沿って男は慎重に歩く。薄氷を踏み身体を濡らすことが命取りになるからだ。犬は暴力的な飼い主に怯えながらも、けなげに付き随う。

    男は途中、何度か火を熾すことを試みる。マッチを擦り、小枝に火を灯し、暖をとりながら食事をとる。しかし、二度目からは火を熾すことが困難になる。予感はあった。恐れていた危機が、二重、三重に襲いかかるのだ。

    やがて男の身体は凍えてゆき……。

    俺は本を閉じ、ため息を一つ吐いた。感謝の気持ちでいっぱいだった。これで漸く眠りにつくことができるだろう。そして、あの男の夢を見るだろう。

 

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