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しのふく通信

物語をめぐり、言葉をめぐり、それから。ーーーー✖︎篠崎フクシ

詩集#1 詩人の嘘

詩集#1 詩人の嘘

その男は

疲労の国から来たという

そこでは

誰もがうなだれ疲れているという

その男も

疲れ果て虚ろな目を足もとに落としている

黒いカラスが俺の耳に囁く

黒いカラスが俺の耳に囁く

フリードリヒは溺れて死んだよ

 

その女は

氷の国から来たという

そこでは

誰もが詩人のように詠うという

その女も

言葉の吐息で男たちを幾人も凍死させた

黒いカラスが俺の耳に囁く

黒いカラスが俺の耳に囁く

フリードリヒは復活しない

 

サレフ川を渡る騎馬の群れは

残酷なほどに赤い鬣に鞭打つ

異教徒を倒すべく俺は渡河を決する

カラスは俺の耳元で嗤う

フリードリヒは溺れて死んだよ

フリードリヒは復活しない

 

あの男は疲れてうなだれている

あの女は俺に手招きをしている

さあ  安全な橋はこちら

さあ  安心な橋はこちら

俺は欄干に手をかけ  はじめて

その愚かさに気づく

それはカラスの羽のように軽く薄く脆く

指の先をすり抜ける

分かっていたのかも知れない  ほんとうは  肺に溜まる水に溺れゆく魂は

分かっていたのかも知れなかった

その女の  詩人の嘘を

 

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