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しのふく通信

物語をめぐり、言葉をめぐり、それから。ーーーー✖︎篠崎フクシ

Essai2 構築について ー森鷗外『普請中』から

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   言葉をつかい、物語をつくることが好きだ。言葉のない物語というものもあるのかもしれないが、僕はこのやり方しか知らないので、こうして言葉を紡いでいる。というか、スマホの表面を撫でている。

   言葉はイメージを喚起する。赤いハンカチーフという言葉によって、赤いハンカチーフが心のなかに浮かび上がる。考えてみたら、魔法みたいで、不思議だ。物語の語り手は、魔法使いのようだ。

   言葉がある以上、物語は終わらない。ビルディングの建築のように、それは天高く伸びてゆき、雲を突き破り成層圏をぬけて、宇宙の果てとその始まりに向けて構築されてゆく。

   森鷗外に『普請中』という秀逸な短編がある。主人公の渡辺参事官は、普請中のホテルで、ドイツの女性と夕げをともにする。どうやら、昔の恋人らしい。

   渡辺は女性の口づけの誘いに、「ここは日本だ」とつきはなす。普請中のホテルと普請中の明治国家の姿が見事に重なる、というのが、教科書などで解説される。

   かつて、西欧社会という目的があった時代の話だ。いまはもう、目的などない。それは現代の文学にも通底するテーマだと思うのだが、いまの僕にはそんなこと、まったく興味がない。

   自由でよいではないか、と思う。

   だから僕というXは、空虚な筆名を使って物語を構築する。Xが生み出した普請中の作家による普請中の物語は、やがて君に届くだろう。宛名のない手紙のように。