ことば置き場

物語をめぐり、言葉をめぐり、それから。

#3 Whodunit

#3 Whodunit

「犯人はこの四人の中にいます」

  私立探偵のフタツキは、男女三人を前にして得意げな顔を見せた。

「ちょっと、依頼主はわたくしざますよ!  わたくしを除いたこの二人が怪しいざあます‼︎  」

  中年の厚化粧の女が金切り声を上げる。

  ざますって……、猫型ロボットの登場する少年漫画でしか使われない言葉かと思ったぜ、と助手の三日月カグヤは呆気にとられていた。

「いえ、四人ですよ、奥様。正確には三人と一匹というところでしょうが、あなたのワンちゃんは……、えーと」

「す、スネちゃまですわ。探偵さん、この子をわたくしの息子と認めてくださるのざますね」

  いや、どうみても犬だけど。チワワだよな、それ。カグヤは心の中でツッコミを入れたが、感動で涙ぐむ中年女の存在に威圧され何も言えないでいた。

  今にも倒壊しそうな雑居ビルの三階。探偵事務所の中は暖房が効きすぎていて、妙に蒸し暑かった。フタツキはにやりと笑った。

「もったいぶらねえで、早くしてくれ! こっちは忙しいんだよ」

  頭にねじり鉢巻を巻いた、八百屋の中年男が叫ぶ。

「ちょーウケるんだけど、オマイらガチ、うんこだし」

  戦いの道具になるくらい突出したつけまつ毛を小指で撫でながら、女子高生が笑い出す。カグヤはそいつのスカートの下を見て、畑でよく育ったおばけ大根を連想した。いずれ、マンドレイクになる。

「奥様の下着泥棒の犯人は……」

「犯人は?」皆、口を揃えて固唾を呑む。

「チワワ」

「へ?」

「と、このバカップルです」フタツキは八百屋と大根を指差した。

  え、えーーー⁈  三日月カグヤは、小さな口をあんぐりと開けた。その場の全員が凍りついているのが分かる。

「な、何を証拠に!」八百屋が叫ぶ。

「証拠?  証拠ならほら、そこに」

    首輪を外すと、チワワは中年女と大根女子高生の間を行ったり来たりしていた。犬の嗅覚は、一説では人間の百万倍以上の能力だという。

 

「つまり、優秀なスネちゃまは、警察犬としての役割をしっかり果たしたのさ」

  その夜、フタツキは肘掛け椅子に深く座り、マティーニを一気に飲み干した。

「いや、だから俺が知りたいのは、犯人が誰かだけでなく、その動機や方法なんだけど。ハウとホワイが抜けおちてるんだけど!」

 「いや、何言ってんの、おまえ。今日のこの掌編小説のお題は?」

「フ、フーダニット」

  不条理ともとれる探偵フタツキの説明から、どのような教訓が導き出されるだろうか。三日月カグヤにとっては、果てしなく長い夜になりそうだった。【了】

 

 

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