ことば置き場

物語をめぐり、言葉をめぐり、それから。

Word

詩集# 捨てる

君はこれまで いくつの 名を 捨てただろう 僕はこれまで 無数の名たちを 捨てた 名は確かに 確かに 誰かの歴史に刻まれていた 雨粒が紫陽花の葉を湿らせ 君のくちびるを湿らせたように 名は誰かの耳朶を湿らせていた 記憶せよ と命じたものは もう立ち去った…

詩集#7 やまい

#7 やまい 春に咲く花が散りゆき 灰色の路面が薄桃色に染まる なのに 僕の咳はまだ止まらない 胸の奥から渇いた咳が かってに かってに 僕の意思ではないのに それは迫り上がる海面のように おそるべきちからをはっきして 神の教えに反した放蕩者の道の 足跡…

詩集#6 感情消失の記念碑

詩集#6 感情消失の記念碑 言葉を奪われた君は その日 一冊の詩集を 燃やした その炎はとても小さく 小さく 小さく 小さく 小さく 小動物に捧げられた墓標のようだった 言葉を奪われた君は その日 聖なる書に 火を放つ その炎は 君がこれから誰も愛することが…

詩集#5 諦めの見返り

詩集#5 諦めの見返り 揺れる 列車の 向かいの席で 若い女が 歯をむき出しにして 笑う 楽しそうに笑う その口腔のおくに 銀歯が光る 俺は それでいい と思った 俺の この偽善よりも いいと思った 女の口腔のおくに 銀歯が光る 誰とも口を聞きたくなかった 俺…

詩集#4 裏切りの証左

詩集#4 裏切りの証左 そこは無風地帯だった 停戦合意にいたった街は それでも悲しみと猜疑と憤りに満ちていた 武器を放棄した俺は場末の酒場で つぎの抵抗の場を模索していた あの小男が あの裏切りという名の小男が現れたのは そんな時だった 裏切りは人懐…

詩集#3 雨の日の全力

詩集#3 雨の日の全力 冷たい雨が降った 今日も俺は 何かしらを語り続けた 八時間 語り続けた 喉が 灼ける 白墨の軽さとは タイショウテキニ 腕の重みで肩が傾く わかってる わかってるぜ これで最後なんだろう? 窓の外は冷たい雨 階下のパーキングでは 毛…

詩集#2 いつもの不信感

詩集#2 いつもの不信感 君は僕の愚かな失敗に気づいただろうか 僕は君の小さな失敗に気づかない 空がこんなに青く澄んでいるというのに またとらわれる いつもの不信感に 僕の失敗はいつも君を苛立たせる だから僕は小石を拾う 投げた小石は川面を切り 銃…

詩集#1 詩人の嘘

詩集#1 詩人の嘘 その男は 疲労の国から来たという そこでは 誰もがうなだれ疲れているという その男も 疲れ果て虚ろな目を足もとに落としている 黒いカラスが俺の耳に囁く 黒いカラスが俺の耳に囁く フリードリヒは溺れて死んだよ その女は 氷の国から来…